サハラの旅から戻り、改めて砂漠の友人たちを写真に収めたいと始めた写真ブログ

長い夜

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茫然自失

出発前、妻がバマコへ電話すると、義母の下痢がひどいとのことだった。

彼女のために、薬や身の回りのものを準備した。
それだけで重さ40kgほどになった。
しかし自分たちの着替えは、マリに着くまでの数日の旅に必要な2〜3着もあればいい。
マリに着いたら、私もマリの民族衣装を買い、ずっとそれを着ているつもりだ。
というわけでスーツケースの中身は、家族と母への土産ばかりだ。
義母の不調を聞いて、早く顔が見たい、早く買ったものを届けてあげたいと思った。

セントレアからドバイまで11時間、乗り継ぎに3時間弱、ドバイからカサブランカまで8時間半のフライトだった。
9歳の娘は、これまで5度の西アフリカ行きで飛行機の旅に慣れており、長時間のフライトは座席モニタでたっぷりゲームが出来てむしろ嬉しいと出発前に言ってくれ、実際に長い機内でひとことも愚痴を言わなかった。
娘に感謝。

ドバイで日本の家族に電話した。
DoCoMoの海外対応携帯が問題なく使えた。
マリにも電話しようと妻も私も言いつつ、気が付くともうモロッコへの機上にあった。
今思うと、ふたりとも何となくダイヤルすることが躊躇われたように思う。

悲しい知らせ

カサブランカの空港に着くと、祖母がお世話になった年配の女性が、わざわざ迎えに来てくれていた。
彼女が用意していくれた車に乗って、テマラ(Temara)というラバトに近い彼女の住む町に向かった。
彼女の伝手で、祖母も数か月ここにアパートを借り、妻の弟と妹がその世話をしていた。
彼女の家に暖かく迎えられた。
サラダがとてもおいしかった。

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妻が彼女の母親の部屋に挨拶に行っている間に、彼女が私に告げた。
「実は、昨日祖母が亡くなった」
「(妻には)夕食後に知らようと思う」

妻が居間に戻った。
笑顔で話しかけ、何気なく振る舞う。
しかしそんな自分や妻を、窓の外から眺めているような、そこが暑いのか涼しいのかわからない、自分の手に触れるものさえ固いのか柔らかいのかわからない遠い感じだった。
ぎくしゃくした時間が過ぎていった。

が、結局、彼女の思った通りにはいかなかった。
夕食前にマリの妹から電話があり、それに出た妻は祖母の死を知ってしまった。
何度も聞き返す目に涙が滲んだ。
しかし取り乱すことなく、実の母親の死を受け止めてくれた。

亡くなったのは、私たちがドバイに着く直前頃だった。

夕食は重い空気の底に沈んでしまった。
おいしい料理だが私も妻もほとんど食べられなかった。

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用意してくれた部屋に、早めに妻と娘と入った。
妻にかける言葉がなかった。
妻はベッドの端に座り、長い間壁を見つめていた。
そこには化粧台と大きな鏡があったが、妻は鏡があることに気がついていないかも知れないと思った。
その切ない姿にシャッターを切った。

私は部屋を出て、しばらく窓の外を眺めた。

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向かいの建物にも、窓の外を眺めている男がいた。
彼も私のように眠れないのだろうか。

後1週間早く日本を出ていれば、亡くなる前に妻と義母を会わせてあげられたのに。
モロッコによらなければ良かったのか?

悩んでいる中、今年、無理を押して休暇を取る気になった理由が確かにあったのだと思った。
決して口には出さなかったが、妻も私も、義母の逝去を薄々心配し、感じていた気がした。
長い長い夜が更けていった。

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コメント(2)

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遠いですね。
私は九州宮崎ですが父が病気になった時、
初めて遠くにお嫁に来たのを悲しく思いました。
だから、奥様も同じお気持だったでしょうね。
私も1日違いで父の死に目に会えませんでした。
離れて暮らしていたから覚悟はしていましたが・・・。

これからも奥様をお大事になさってくださいね。

歓迎のごちそうが並んでいるのに・・・
とてもおいしそうなのに・・・
申し訳ないけど食べられませんよね。

SECRET: 0
biwakokayoさん、
コメントを書いていたら、長くて書ききれませんでした。
投稿という形にしましたのでそちらをお読みください。

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このブログ記事について

このページは、Yoshinori FUKUIが2006年7月29日 23:41に書いたブログ記事です。

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