日本に戻り暮らし始めてから、サハラ再訪まで

サヘルは緑地化しているのか、砂漠化しているのか

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サヘルは、下の記事のように、本当に緑地かしているのでしょうか?

サヘル地帯(サハラ砂漠の南側にある広大な半砂漠の草原地帯)のアフリカ各国は砂漠化を防止するための緑化計画に取り組んできたが、最近の衛星写真によれば、かつての不毛の土地に植物が根付くなど砂漠を押し戻していることが分かった。これは21日に発売される英科学誌ニュー・サイエンスに掲載される。

同誌によれば、英国、スウェーデンおよびデンマークの地理学者は過去15年間の砂漠の衛星写真を数カ月間かけて詳細に調べたもので、モーリタニア南部、ブルキナファソ北部、ニジェール北西部、チャド中央部、スーダンの大半およびエリトリアの一部で再緑地化が大幅に進んでいるという。

最も顕著なのはブルキナファソで、同国は20年ほど前まで砂漠化の危機に陥っている典型的な国と見られていた。その国で今や緑がよみがえり、文字通り緑のじゅうたんの草原や森林が生まれている。キビあるいはモロコシの生産が近年で70%増加した地域もあるという。

引用元:MSN News: サハラ砂漠の南で砂漠化押し戻す=衛星写真の調査で判別

一方で、今月12〜13日にコートジボワールのアビジャンで開かれた環境会議では、農地の拡大と伐採による西アフリカの森林と生物多様性の危機が大きく取り上げられました。(注2)。
また、サヘルの一部地域での極端な降雨とその他の地域における旱魃による今年から来年にかけての食糧不足も警告されています。(注3

私も、上記の報告の調査期間よりすこし前(1982年)からサヘル地域に足を運んでいます。
そんな私が自分の目で見た限りでは、確かに1985年までは、文字通り「旱魃」によって人々は苦しんでいました。
その後は、雨がそこそこ降り、家畜のえさとなる牧草や穀類が、足りないながらもできるという状況がしばらく続き、ここ2〜3年は、局地的な大雨が、あちこちで被害をもたらしています。
しかし、近年の雨の増加は必ずしもサヘル地域の緑地化には結びついていないように思えます。

というわけで、先の報告にはふたつの点で疑問があります。
ひとつめは、自然の植生と農地をどこまで厳密に区別しているかという点です。
わずかに木や草が生えていたところが、農業の近代化によってミレット(トウジンビエ)やソルガム(コーリャン)の畑になったり、潅漑による水田になったところがたくさんあると思います。
しかし本当に自然の植生が回復したところとがどれほどあるのでしょうか。
自然の植生の中でも、1年生の草でなく、樹木の種類や本数が増えたところが本当にあちこちにあるのでしょうか。
近年降水量が増えているとしても、人口の増加による農地の拡大と樹木の伐採は、決して減少しておらず、今現在もそれはサヘル地域を「砂漠化」していることを、忘れてはならないと思います。

ふたつ目の疑問は、調査期間の長さ(短さ)です。
サヘルの雨は、一か所の平均降水量とか、ある地域の平均降水量などを話すことに、あまり意味を持たせてくれません。
一か所の降水量が、年によって0mmから300mmほどまで大きく変わったりします。
また、年によって、雨の降る回数や、降る時期が違います。
こっちの村で大雨が降っても隣村では一滴も雨が降っていなかったということもよくあります。
こんなところでは、平均降水量よりも、少ない時は何ミリ、多い時は何ミリ、何月頃から降り始め何月頃まで降る、ということを知っていることの方が、この地域で長い間営まれた来て農業や牧畜にはずっと役に立ちます。
そして、文献などを見てみると、降水量や旱魃は何十年という周期(といってもはっきりしませんが)で変化しています。
この地域で近年行われてきた「開発」がどれもうまくいかなかったのは、社会学あるいは文化人類学的なアプローチが不足していたことも大きな要因だと思いますが(このことはまたいつかじっくり書きたいと思います)、同時にサヘルの自然を、気候が1年周期でかつ毎年安定的にそれが繰り返されている地域をモデルのように捉えて、平均降水量とか穀物の平均収穫量を基準にしたり、変動要素がほぼ偏差値内にあると考えたり、人々が定住化していることを暗黙の前提にしたりしていたことにも大きな原因があると思います。
サヘル地域では、土地が非常に脆弱であることと、降水量だけでなくいろいろな要因が「不安定であることが当たり前」ということを先ず大前提にしなければいけないと思います。
このような地域で15年という調査期間は、非常に短く、あくまでこの期間内での状況報告はできても、それが今後も続くものであるとは保証できません。
また調査地点が、サヘル地域すべての状況を表しているものでもありません。

ですから先の報告は、サヘルの現状を見ていると、無批判に喜べるものではなく、参考にしつつもいろいろな点で、確認したり、今後のフォローが必要だと思います。

先の報道は本当に簡単なものでしたので、何はともあれ、21日に発売の英科学誌ニュー・サイエンティストを手に入れ、その報告をじっくり読んで見たいと思います。そしてその感想をいつか (^_^; 書きたいと思います。

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コメント(3)

i don't know sahel.

what's that

サヘルは、もともとアラビア語で海岸という意味です。
サハラ砂漠を海に、その南縁地域を岸辺にみたてて、この地域をサヘル地域といいます。

Sahel means originaly "coast" in Arabic.
So geographycally, this word applis to southern edge of Sahara desert.

i appreciate your answer.
i understand very well.

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このブログ記事について

このページは、Yoshinori FUKUIが2002年9月23日 17:33に書いたブログ記事です。

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