日本に戻り暮らし始めてから、サハラ再訪まで

ラクダの旅の後日譚

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昨日の話には、実は苦い後日譚があります。

男の言葉と旱魃の厳しさから、ラクダの旅をやめることしました。
比較的豊かな土地を見つけ、そこの首長に頼んでラクダを預かってもらい南の町に下りました。
町は難民となった遊牧民で溢れていました。
欧米の団体から食料や医薬品の援助が盛んに行われていました。
しかしその多くは、町の有力者や商人の手に渡たっていました。
遊牧民の文化や習慣の無理解から、無理な計画が押しつけられたりあるいは実行されずに消えていきました。
不正が横行していました。

そして年が明けると数年ぶりの豊かな雨期が来ました。
北に戻ると、ラクダは一頭は餓死し、一頭は生き残っていました。
「これからどうしよう」
働きながら考えることにしました。
しかし、旱魃で家畜の数は激減しており、これまでに身に付けた家畜を扱う仕事はありません。
残った一頭のラクダとこれまでの旅で使っていた道具や衣類を、かつて住み込んでいた遊牧民の友の遠縁の男に預け、残った資金でものを買い商売をすることにしました。

数ヶ月留守にして帰ってくると預けた荷物は何も残っていませんでした。

泥棒に入られたとのこと。
しかし、その村のものたちが陰で教えてくれました。
「あいつが売った」と。
探してみると、私の民族衣装の切れ端が仕立屋に残っていました。
荷物を預けた男がそれを自分に合うように仕立て直していたのです。
それはマリの北部では手に入らないモーリタニアの生地でした。
証拠品を持ってジャンダルムリ(警察と軍隊の中間のような組織)に届け出ました。
しかしジャンダルム(ジャンダルムリの担当官)は同郷の男の友人でした。
逆に、正式に訴えるのなら、私の方も荷物とラクダの預け賃を払わなければならないと、法外な金額を請求して脅されました。
その金額は、男に賠償してもらっても割に合わない金額でした。

ラクダだけは、預けた男が自分の手元に置かず、村から離れた遊牧民に預けていたのが幸いして残っていました。
そこで荷物はあきらめることにして、ラクダが少しでも高く売れるようにマリとアルジェリアの国境まで行ってラクダを売りました。
人間不信になりました。
そしてマリを離れ、モロッコでラマダーンを過ごし、フランスから日本に戻りました。
人間不信はしばらく続きました。
いつかあの担当官に復讐してやろりたいという気持ちが続いていました。

しかし日がたつにつれ、サヘルの自然と、テントに住み込んでいたときの友人たち、旅の途中で出会った人々、旱魃で避難した町で出会った人たち、ラクダを売るときに親身に手伝ってくれた遊牧民の顔が、とても懐かしく思えてきました。

それからもう少し時間がかかりましたが、世界中どこにでも悪い奴もいれば良い奴もいる、という当たり前のことを当たり前に思えるようになりました。

後日譚の後日譚:
実は(こればっかだな)荷物を預けた村へ帰る直前にも、商売でも被害に遭っていました。
サヘルの商売は信用貸しがよくあります。
それが見事に裏切られたばかりでした。
それもあって、ラクダをおいた村での家主による盗難は、泣きっ面に蜂で傷つきました。
そんなこともあって、あの担当官への復讐心だけはいつまでも抱き続けていました(笑)
盗んだ男については、まだまだ厳しい状況の中で目の前に欲しくなるようなものを置いていった自分にも否があると思え、彼への憎しみはそれほど続きませんでした。
しかし公正であるべきジャンダルムの仕打ちは忘れられず、彼の消息はNGOのスタッフとしてマリで働き始めても気にしていました。
いつか何かの形でお返しをしてやろうと(執念深い)。
しかし1990年代半ば、私が復讐を果たす前に彼は突然病死してしまいました。

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コメント(2)

以前、郵便の事でコメントを差し上げたものです。私も過去2年ほどアフリカにいた事もあり懐かしく思ってコメントを気軽に付けてしまいましたが今回の記事を読んで、また過去記事を読んで軽率であったと反省しています。
すいませんでした。

yamamoto さん、2度コメントしていただいてとても嬉しく思っています。
決して気を悪くしていませんよ。
なぜ旅の結末について書いたのか、別の書き込みでお話させてください。

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このブログ記事について

このページは、Yoshinori FUKUIが2003年12月 5日 06:06に書いたブログ記事です。

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